「社会に出てからの方が壮絶に大変ではありますよね、どう考えても」
強制力がはたらく社会の中で、先に言ってしまう、なるべくゆっくり喋るなどを実践し、営業職の電話にも対処してきた吃音当事者の土肥さん。
それは自分の弱みや、社会の中での吃音というものを理解しているからこそできること。感謝の伝え方1つも工夫されており、「表現の中身で勝負するしかない」という言葉が印象的でした。
今回は、吃音を持ちながら営業職で働く当事者の方にインタビューをしました。
自己紹介

お名前と年齢を教えてください。
名前は土肥(どひ)です。年齢は今41歳です。
趣味や好きなことを教えてください。
ダーツと、サッカーと、ポーカーが好きです。
ダーツは卒論を書いているときに家のパソコンがダメになって、ネットカフェに行って…そこに置いてあったのがきっかけで始めました。
そこからお友達ができて、遊ぶついでにやっているうちに、ダーツとポーカーは大会にも出るくらいやるようになりました。来月も大会で韓国に行く予定です。
現在お仕事はされていますか?
会社員で不動産の営業職を経験したのち、現在は自営業をしています。会社を立ち上げて3年ほどです。
学生時代と吃音

吃音を自覚されたのはいつ頃ですか?
自覚したのは結構早かったですね、少なくとも小学校2年生の時。ずっとですねそこから、気づいたらそうでした。
大学生の時までは連発(繰り返し)オンリーだった気がするんですけど、社会人になってから難発(ブロック)も一緒に出るようになって、そこからずっとこの歳まで吃音です。
きっかけはあんまり覚えていないですけどね。決定的なのは母にことばの教室に週一回連れて行かれるようになって。小学校2年の時に転校して、それがきっかけなんじゃないかなと、なんとなく思っています。
小学生の頃はどんなことに困ったのでしょうか?
常日頃馬鹿にされたりとか、そういうのはやっぱり困ったことといえば困ったことですね。
子供の頃は対処のしようとかは特になかったですけど、自分としてはあんまり自覚がないというか。周りから聞いたら違和感があるのかもしれないですが、自分は普通に喋っているつもりだったので、その辺は微妙な心持ちでした。
でも私が悪いわけじゃないんで、なんでそんなこと言われなきゃ(からかわれなきゃ)いけないんだっていう気はしていましたね。
周囲に理解者はいましたか?
学生時代は別に理解者という人はいなかった気がしますね。
でも他のことと一緒で、例えば太ってる痩せてるとかと同じような要素もあると思います。体型がどうだから仲良くする・しないというのもないのと同じように、私と仲良くしてくれる人は一定数いたので。
高校くらいから友達を選ぶ基準ってだいぶ変わってくると思います。中学くらいまでは周りのモラル的なものもそんなにないので、心痛める経験は多かったかもしれないですね。
発表や音読に困ることはありましたか?
発表とかはあんまりなかったんですが、高校の時に面接があったのでそれが心配だったくらいです。
傷つくことは何回もありましたけど、困ったことはなかったかもしれないですね。
でも社会に出てからの方が壮絶に大変ではありますよね、どう考えても。
社会人と吃音

就職してどんなことが大変でしたか?
やっぱり特定のシチュエーションが弱くて。私が弱いのは電話と、インターホンです。
ある程度社会に出たら強制力がはたらくので、しょうがないですよね。
新卒で入った一社目だと会社名は言いやすかったんですけど、私の苗字の土肥っていうのがめちゃくちゃ言いづらくて。固有名詞に限ってはどうしようもないじゃないですか。
あとはお客さん先に行って、インターフォンを押す時とかがあるので、それは結構大変ですね。
「〇〇会社の土肥です」っていうのがでてこなくて、電話切っちゃったりとか、人並みには吃音で嫌な思いをしました。電話を前にしただけで薄暗い気持ちになるんで。
吃音を伝えた上司の対応はどうでしたか?
その時の上司の石川さんには吃音があることを言ってたので、「それでクレームになったらこっちから説明するし大丈夫だよ」って言ってくれていたのはよかったですね。
営業でどうしても電話しなきゃいけない職種だったんですが、「どうしてもダメだったら他の部署いきゃいーじゃん」って言われて、「電話しない部署ってあるんですかね?」ってきいたらないなーって笑われました(笑)
石川さんは若手の中でも評判が良い上司の方で、明るい雰囲気の中での会話でした。
吃音と生きる工夫

普段からされている吃音の対処法はありますか?
オフィシャルな場だとやっぱり一個、明確な対処方法があって。先に(吃音があることを)言ってしまうっていうのはやっぱり何よりも良い対処法だと思います。
自分はこういう病気というか癖というか、先天性に近いものをわずらっているというか、おそらくこれからも治ることがないという話は、最初にしてしまいますね。
どのようなタイミングで吃音を伝えるのでしょうか?
ちょっとごめんなさいって話して、最初の自己紹介の時とか。タイミングは難しいですけど、継続的にやりとりしなきゃいけないとわかった段階で言いますね。今も昔も。
対処法とか本当はやりたくはないですけどね、手っ取り早いので。社会に出て割と早めからやってましたね。
他にはどのような工夫をされていますか?
あとはゆっくり喋ることですね。ゆっくり喋っていれば、咄嗟に言い換えても不自然じゃなくなりますし。
結構仕事とかオフィシャルな時は、なるべく単語と単語の間をあけてやる(話す)ようにしていますね。
もう一つ工夫していることがあって、なるべくボソボソ喋るっていうのをやっています。大きな声をだそうとすると首周りの筋萎縮みたいなのがより多く出ちゃう気がして、とにかくボソボソ喋ると、出ずらいですね、多少。
聞き返されてしまうことはないですか?
いっぱいあります。それでも私はボソボソしゃべります。社会人になってからずっとそうしていますね。
でもやっぱり自分の名前が出てこないとか、恐怖でしたけどね。誰が電話発明したんだとかってよく言ってました(笑)
その辺りは独立のきっかけにもなっていますね。そこから転職して、起業しました。
吃音と営業職

吃音だからこそ得た経験はありますか?
吃音なのに営業やってるってだけで、ちょっとなんかアイデンティティにはなっています。
身体のどこかを怪我してるのにスポーツ頑張るみたいな。
自分の弱いものを頑張るってそれだけでなんか意味があるような気がして。
実際に好印象を持たれた経験があるのでしょうか?
好印象を持たれたというか、紹介してもらう時とかに楽かもしれないですね。「彼、そんなんだけど営業で頑張ってるよ」みたいな。
あとは、私が吃音を持っていることで、周りがどういう人間かっていうのがわかりやすいかもしれません。
どっかで自分の喋り方の真似をしてたとか、そういうのがあれば絶対耳に入ってくるので。判断の一材料になるというか、それは確かにありますね。
私は妹が一人いるんですけど、2つしか離れていなくて。小さい頃から何度も喧嘩していたはずなんですけど、妹が私の吃音に対して何かを言ったことは1回もなく。(喧嘩をしても吃音をからかわれることは一切なかった)今思えばそれはよかったですね。
1社目からずっと営業職をされているのでしょうか?
そうですね、ずっとです。元々人と関わったり話すことが嫌いじゃないので。
よく友達は多いと言われますね。ダーツもポーカーも学生の時の友達も。
人との関わりで大切にしていること

今吃音の症状で困ることはありますか?
特に仲良い友達の加藤くんの名前が言いづらくて、下の名前で呼ぶようにしています。でも困ったことに最上級に仲の良い友達で(笑)
ダーツの友達はみんなカードネームっていうのがあって、大体それで呼び合うんですけど、彼のカードネームは名前の頭文字が変わらないので、呼べない時がありますね。
そういえば、酔っ払っている時吃音がすごく出ます。
酔っ払った時とか、友達を下の名前で呼んでますけど、もう一人同じ名前の人がいたりして大変ですね。でも二人振り向いてもいいので、もう一人がいても下の名前で呼びます。
言葉が出ないなって思いますけど、周りももう大人なのでなにも言わないですね。もう私はそういうもんだと分かってるので。
人と関わる上で意識していることはありますか?
吃音の種類によっても変わりますが、割と受け入れられやすい世の中になってきたのかなと思いますけどね。
私すごい人見知りなんですよね、極度の人見知りで。
知らない人に会うのって億劫なんですけど、今会っている人たちって、ネットとかで知り合ったんじゃなくて、誰かが媒介になっているので。
媒介になってくれた人への感謝を絶対忘れないようにしようって思っています。
感謝はどのように伝えるのでしょうか?
それは日頃から言語化するようにしてますね。
かといって何かあった時じゃなかったら、「あいつ紹介してくれてありがとうな」なんて急に言ったらおかしいじゃないですか。何もないときに急に感謝を伝えるって難しくて、そこは結構工夫していて。
相手に直接「ありがとう」って言うよりも、自分はこういう考えを持っているって伝えるというか。
やっぱり人との繋がりで今の人生が充実してるし、仕事にもなっているから、そこの感謝だけは絶対に忘れないようにしてる、っていうのを本人がいる前で言うんですよね。
俺はこういう考え方を大切にしているって、間接的に伝えるというか。その辺は吃音だからかもしれないですけど工夫してますね、人の誉め方とか。
ほめる時はどのようにしていますか?
ほめる時も同じです。例えば、女性に「よく可愛いって言われるでしょ」っていうほめ方をするよりも、自分はこういう人がタイプで、あなたはそのタイプなんだよって、自分の感情とか思考とかを伝えるイメージですね。
お金持っててすごいですね、とかもそのまま言うのではなく、僕はこう思いますみたいな。客観的に褒めるんでなくて主観的に褒めるみたいなのを昔何かで読んで、いいなと思って。実践してますね。
それは吃音だからかもしれないですね。やっぱり、より表現の中身で勝負するしかないので。ありがとありがと、ってずっと言ってたら気持ち悪いですからね、おじさん同士が(笑)

「こうするしかないので、こうしてきた」というマインドがとても素敵です。でもそこまでたどり着くには沢山悩んで考える時間があったのだと思います。
ご自身の仕事をこなしつつ、たくさんの友達に囲まれて趣味のダーツを楽しむ土肥さん、実は人見知りとのこと。
お仕事をする上での工夫や考え方も沢山聞かせていただき、ありがとうございました!
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