「相談する発想がなかった」吃音当事者の女性が”諦めた夢”と中高生支援への想い

「吃音と書いたら“キツネ”とも読めるので、この子に親近感を持っていまして」

愛らしいキツネのぬいぐるみを手にして、せいなさんはにっこりとほほえむ。

吃音は彼女のアイデンティティー。当事者である自分にできることは何かと考え、たどり着いた先は、吃音で悩む中高生への支援だった。

インタビューに明るい笑顔で答えてくれるせいなさんだが、学生時代は吃音によって悩まされることも多々あったとのこと。

では、せいなさんは吃音にまつわる困難をどのように乗り越えてきたのでしょうか。詳しくお話を聞かせてもらいました。

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目次

吃音に一人悩んでいた学生時代

私の話し方は他の人と違うのかな?

せいなさんは、物心ついた時から「どもり」の症状を自覚していたそうだ。成長するにつれて、小学校中学年頃からだんだんと周りを意識するようになり、自分の話し方が他の同級生たちと違うのではないかと悩むようになった。

“吃音が理由で諦めたこともいっぱいありました。自己肯定感も全然なかったです。”

小中学生の頃は、発表や音読をすることを、できるだけ避けるような学校生活だった。

吃音のことを相談したかった

“相談するっていう選択肢を消していました。怖いじゃないですか。吃音のことを切り出す勇気がなかったので、一人で抱え込んでいました。”

吃音について、親や先生に自分から相談することはなかった。相談するという発想もなかったそうだ。

小学校低学年の時には「ことばの教室」に通っていたが、それ以外で特に支援を受けたり相談したりするような機会はなかった。

“相談できる人がいたら良かったのになって思うことはあります。”

高校受験や大学受験で感じたハンデ

高校受験では内申点が重視されるが、発表が苦手なせいなさんは、発表以外のことで人一倍頑張らないといけなくて、そこに不平等さを感じた。

また、大学受験では、面接のない受験方法を探すことが大変だった。吃音がなければ、こんなに悩むことはないのにと不便さを感じたようだ。

キツネとの出会い

発表が苦手なせいなさんだったが、高校生の時、人前で吃音について話した経験がある。

それは演劇だった。劇のテーマは「私と青春」。一人10分間、自分のことを一人で話さないといけなかった。そこで、みんなの前で吃音について話してみることにしたのだ。

劇の準備をする中で、せいなさんはある面白いことに気づいた。

「吃音」という言葉は、読み方を変えると「キツネ」だ。劇にも、キツネのぬいぐるみに一緒に登場してもらった。それ以来キツネは、せいなさんのよき相棒だという。

叶えられなかった夢と実現できたこと

吃音のために味わった挫折

養護教諭になることを夢見て、養護教諭の免許を取得できる大学に進学したものの、その夢は叶えられなかった。ここでも吃音という壁が立ちはだかったのだ。

実際に大学で勉強してみると、養護教諭は人前に出て話さないといけないことが多い仕事だということを知った。吃音を抱えながらそのような仕事をするのは難しいかもしれない。そう思って養護教諭の道は諦めることにした。

大学の同じ学部の人たちは、みんな養護教諭になろうと頑張っているのに、自分は何をやっているのだろう。そう思うようになった。せいなさんの足は、次第に大学から遠のいていく。

吃音当事者の自分だからできること

大学にはあまり行けなかったが、学校以外の場所で、せいなさんは自分がやりがいを持てることを見つける。それは「吃音交流会を主催すること」だった。

大学3年生の時、吃音当事者の友人ができた。自分以外の吃音者と出会ったのは、せいなさんにとって初めての経験だった。その友人になら、吃音のことも気軽に話せた。

“他の吃音者の人とも関わってみたいな。”

せいなさんが何気なく言ったひとことに、友人は共感してくれた。そうして二人は、吃音当事者のオンライン交流会を開き、6名の当事者が参加してくれた。

“めちゃくちゃ楽しかったんですよね。友達も「めっちゃ楽しいね」って言って。”

自身の経験から、特に中高生の吃音当事者への支援が必要だと、せいなさんは感じている。 当事者同士が話せるようなイベントがあったらいいだろうな。そんな思いから、中高生を対象としたイベントを、社会人になった今でもずっと続けている。

“自分のイベントがきっかけで、中高生の子が誰かと思いを共有できているのを見ると、やりがいを感じます。”

自分のことを認めてもらえた嬉しさ

吃音交流会の運営に没頭していたけれど、心のどこかでは、みんなと同じように大学に通えていないことに罪悪感を感じていた。自分は吃音を理由にして、授業やいろんなことから逃げているのではないかと。

そんな時、大学の先生から思ってもいなかったような温かい言葉をかけてもらえたことがある。ずっと大学を休んでしまって、久しぶりに学校へ行った時のこと。先生に呼び出されたので、怒られるかなと思っていたら、意外にも吃音交流会のことを肯定的に受けとめてもらえたのだ。

“先生から、「みんなよりしないといけないことが明確になっているし、めっちゃいいと思う」って言ってもらえて。私はみんなと比べてできないことや、やっていないことがいっぱいあるんですけど、自分のことを認めてもらえた嬉しさは、今でも鮮明に覚えています。”

今思うこと

現在は介護の仕事をしているせいなさん。仕事中はどうしても声を発しないといけないような時がある。しかし、同僚には吃音のことをまだ伝えられていないそうだ。

“カミングアウトが日常会話感覚でできるようになったらいいな。自分も身近な人に対して、吃音のことをもっとフラットに伝えていけるようになりたいです。”

“吃音を理由に諦めたことはあるけれど、吃音だからこそ得られたものもあるから。そういったプラスの部分を大切にして、これからも過ごしていきたいです。”

そう言って笑うせいなさんの表情は、希望に満ちていた。

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この記事を書いた人

口下手だけど、書くことは好き。文章で人の心を動かしたい。エモーショナルなライターを目指しています。愛読書は子どもの頃から『赤毛のアン』。アンのように日々の小さな幸せを見つけて、書き続けていきたいです。

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